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絵置き場>>文



 家路まで



しんしんと冷えた空気に満天の星。
人通りが途切れたところでやっと銀髪の男と漆黒の髪の男は並んで歩き出す。
何を喋るわけでもなく、静かに歩く。
吐く息が白く流れていくだけ。



いくらか歩いたところで口を開いたのは、黒髪と黒瞳を持つ男。
「今日は珍しいですね」
何が、と問うこともなく、銀色の髪がゆれてかすかに笑ったのだということがわかった。
「う〜ん、今日は飲んでないですからね〜」
ポケットに手を突っ込んだまま、少し前かがみに歩く男の顔をちらりと見るように、高く結った髪が横に振れた。
「飲んでなくても、いつもは遠慮なしじゃないですか」
苦笑交じりの声に遠まわしに責められたような気がして、銀の髪があらぬ方向を見上げる。
「それに今晩は冷えてるしー」
言い訳をした。
「それで?」
銀髪の頭が向いた虚空を見上げながら黒髪の男が問う。
「それでって、言われても…」
と、答えかけて淡く澄んだ緑柱石の瞳は黒曜石の瞳に見据えられていることに気づく。
「それで?」
同じ問いをかけられて銀髪の男は観念した。
「俺の手は…、とても、冷たいから……」
その答えを聞いて黒い瞳の主は目を伏せて微笑う。

「手甲をはずしてくれませんか」
黒髪の男に請われて銀髪の男はポケットの中で固く冷えた手を握りこんだ。
隣り合った腕に促されて、銀髪の男は『なんで』、と反論しようとした口を閉じる。
結局は黒髪の男の言うことを聞いてしまう自分を知っているから。
「これでいいですかー?」
銀髪の男は手甲をはずした皎い手を振ってみせる。
はい、と笑って頷くと黒髪の男はぐい、と皎い手を握って自分のポケットに押し込んだ。
手甲をはずした手から直接、あたたかい手のぬくもりが伝わってくる。
黒い瞳は伏しがちに前を向いたまま、微笑みをこぼしている。


「今日は珍しいですねー」
僅かに諧謔を含んだ銀髪の男の言葉に、何が、と問うこともなく
「そうですね」
と、黒髪の男は同じくどこか少しおどけた調子で答えた。



しんしんと冷えた空気に満天の星。
家路に着くまであと数百歩。


おわり




※意味がわからなかった方への説明
イルカ先生の「今日は珍しいですね」はカカシ先生が手を繋いでこなかったこと、
カカシ先生の「今日は珍しいですねー」はイルカ先生から手を繋いできたこと、
です。

こんなことを書かなくても意味が通じる文章を書けるようになりたい^^;







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