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絵置き場>>文


まぜごはん


「カカシ先生、今晩ウチにきますよね?」
イルカ先生に声をかけられた。
時は夕方、受付の交代時間を迎えたイルカ先生はいつものように笑って俺に声をかける。
「あ、はい。…でも」
今日はイルカ先生の誕生日なのだ。
できれば普段と違う特別な日にしたいと思う。
こんな時間に受付をウロウロしているのもイルカ先生の仕事が終わるのを待っていたからだ。
「ん?でも?」
方眉をあげて少し怪訝そうな顔をする。自分の誕生日を忘れているのだろうか。
「あのぅ、今日はイルカ先生の誕生日ですよね?だから俺、何か特別なコトをしたいと思って…」
イルカ先生は遠まわしな物言いを好まないので正直に言う。
俺の答えを聞くとイルカ先生は笑いながら「アナタがウチに来るのに『でも』なんて言うもんだから何かあるのかと思ったら…いつも通りでいいんですよ。今晩、適当な時間に来てくださいね。あ、晩ご飯は食べずに来ること!」と言う。
最後の言葉はアカデミーの先生そのもので内心苦笑する。
でも浮かれているような気配のイルカ先生の姿に嬉しくなって俺はすぐさま「はーいっ!」と答えたのだった。



「こんばんはー」
俺はできうる限りの速さで予約していた店の料理を回収してイルカ先生の家の前に立っていた。
もちろん一楽のラーメンだってある。
そんなわけで俺は両手いっぱいにオカモチやら桶なんかを抱えていた。ドアが開けられないのだ。
俺は想い人の家の玄関を足で開けるほど無粋な男ではない。

「カカシ先生、いらっしゃい。早かったですね」
てっきり家の中から出てくると思っていたイルカ先生が後ろからやってくる。
手には小ぢんまりとした寿司桶を持っていた。
「晩ご飯を食べずにって言った意味、解らないアナタじゃないでしょうに」と笑いながら引き戸をあけてくれる。
「あのね、俺の誕生日だからって隣のオバ…いや奥さんがちらし寿司を作ってくださったんですよ」
喋りながら俺とイルカ先生は小さな居間に上がった。
そして小さなちゃぶ台の上に所狭しと料理を並べる。

「なんか、スゴイですね」
「二人で食べ切れるんですかね」
どちらからともなく言葉が漏れた。

「いっそのこと、ナルト達も呼びますか」とイルカ先生が言う。
今にも呼びに行きかねないイルカ先生の素振りに慌てて頭を振る。
「ダメです、ダメです。イルカ先生と二人きりじゃないとイヤです!!」
「ふふふ、ウソですよ。アナタ、ナルトたちにいっぱい課題を出したんでしょう? ナルトがね、宿題がいっぱいあるから俺の誕生日祝いができないって昼間に来たんですよ。プレゼントを持ってね」
ふふふ、と言いながらも目が笑ってなくてちょっと怖い。

「…す、スミマセン」
「スミマセンは俺にじゃなくてナルト達に言ってやってください」
「…ハイ」
やっぱりよくなかったよね、とちょっぴり元気をなくしてしまう。
イルカ先生はそんな俺の姿をチラと見ると咳払いして「でも、まぁ俺もカカシ先生と二人きり、っていうのはイヤじゃないです」と表情を和らげた。
「ほ、ホントですか?!」
たったそれだけのことで嬉しくて声が上擦ってしまう。
ホントーです、と少しふざけて笑うとイルカ先生は「じゃあ、食べますか!」と言って俺に箸を渡してくれた。



「お寿司、よそいましょうか。食べるでしょう?」
一楽のラーメンをぺろりと平らげたイルカ先生が俺に訊く。
「ええ、頂きます」
イルカ先生の話によると隣のオバちゃんは俺の分も作ってくれていたらしい。それを食べずに帰ったらバチがあたると言うものだ。

イルカ先生は俺と自分のちらし寿司をよそうと再度「いただきます」と言った。
俺もだけど家庭料理をあまり食べる機会のないイルカ先生はきっと嬉しかったのだと思う。
一口食べてみてその美味しさに思わずイルカ先生と顔を見合わせた。
「旨いですね〜、このお寿司」
「ホントですね、美味しい。…久しぶりです、こんな美味しいお寿司を食べたの」
ゆっくり一口一口を味わう姿が幸せそうで俺も嬉しくなる。

ふと、思い当たることがあってイルカ先生に訊いてみることにした。
「そういえばイルカ先生、ませごはんが嫌いだったんじゃ…。ちらし寿司ってまぜごはんの一種ですよね?」
そう言うとイルカ先生は箸を止めて少し考えた後「…そうですね。散らし寿司はまぜごはんの中でも一番嫌いな種類です」と言う。
「???」
俺はどういう意味でイルカ先生がそう言ったのかわからなくて当惑してしまった。訊かない方が良かったのかもしれない。
そんな俺を察したのかイルカ先生は「まぜごはんやちらし寿司の味自体は別に嫌いじゃないんです」と苦笑した。
ますますわからなくなって混乱したが「そうなんですか」とだけ答えておいた。なんとなくイルカ先生が寂しそうに見えたからだ。



しばらく二人とも無言でちらし寿司を食べている。
何か楽しい話題はないかと考えていたらイルカ先生が口を開いた。
「あのね、カカシ先生。俺、子供の頃はまぜごはんが好きだったんですよ。子供の頃って言っても両親がまだ居た頃のことですけど」
イルカ先生のお母さんは誕生日やハレの日にいつもまぜごはんを作ってくれていたのだという。
それを聞いて俺は(ああ、それで…)とやっと思い至った。
祝いの食事は独りで摂るものではない。
両親との楽しい思い出のつまった料理はその両親を亡くしてしまった後どれだけイルカ先生を哀しませただろう。
思い出が温かければ温かいほど孤独を感じたに違いない。
「子供じみた理由でしょう?」とイルカ先生は笑ったけれど。
俺はちっとも子供じみているなんて思わなかった。

「子供じみている、なんて思いませんよ」
思ったことをそのまま伝えると「カカシ先生は優しいですね」とイルカ先生は微笑んで
「俺、またまぜごはん、好きになれそうです」と続けた。
俺の為にちらし寿司を作ってくれる人が居て、俺の誕生日を一緒に過ごしたいと思ってくれる人が居るから、と。
照れながらも嬉しそうに言うイルカ先生が好きで好きで堪らなくなる。
「イルカ先生、俺、来年ちらし寿司を作りますよ!」
もうこの人のためなら何でもできてしまう気がする。
「アナタの作ったちらし寿司を食べたらまた嫌いになるかもしれませんよ?」なんて笑っているけれどきっとイルカ先生は喜んでくれる。



再来年もまた次の年もそしてまた次の年もちらし寿司をイルカ先生の為に作ろうと決めた。
優しく温かい思い出には勝てないかもしれないけれどイルカ先生が「まぜごはん」を見て寂しく感じることが少しでも減ることを願いながら。




●乱文、捏造ご容赦下さい
 イルカ先生の誕生日を祝う気持ちを少しでも伝えることができたなら幸いです





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