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スケーターズワルツ3



「えっ?!」


声を上げたのはイルカだった。
カカシを守るはずの腕は一瞬のうちに捕られ、カカシの下敷きになるはずだったイルカの体はカカシの上に乗っかっていた。

「…イルカ先生、大丈夫?」
下から心配そうな顔で見上げるカカシにイルカは言葉に詰まってしまった。
庇うつもりが庇われた。
大丈夫ですか、と問うはずの自分が心配されている。
イルカが黙っているとカカシは「またかっこ悪いはたけカカシを見られちゃったよー」と笑う。
この照れ笑いでさえ、自分を気遣っているものだろうと思うとイルカは居た堪れない気持ちになってしまった。


「……ないです」
「なぁに? イルカ先生?」
起き上がりながら今度はカカシがイルカの顔を覗き込む。
イルカはカカシの顔が見れず横を向いている。
「…かっこ悪くなんてないです、と言ったんです」
「え?」
「カカシ先生はかっこいいですよ! どんなに俺が頑張っても追いつけないくらいに! ……ついでに言っとくとかっこ悪いカカシ先生も嫌いではありません!」
照れ隠しでぶっきら棒に言い放っても頬には血が上る。
しばらくは青天の霹靂に撃たれたかのように固まっていたカカシだったが、意味を解すと東から昇る太陽のように顔を輝かせた。

「ねぇ、イルカ先生、それって……!!」

既にイルカは飛びついてくるカカシを察して逃げ出している。
「イルカせんせー、どうして逃げるんですかー! オレはアナタの大好きなはたけカカシなんですよー!」
「ば…っ! そういうこと、大声で言わないっ!!」



そんなこんなで。
追いつ追われつ、そんなやり取りをしているうち、カカシはあっという間にスケートをマスターしてしまった。
「カカシ先生、滑れるじゃないですか!」
「ん?」
「スケートで滑って追いかけて来たでしょう?」
「……あっ! ホントだ!」
「大体ね、アナタはカッコつけなきゃすぐにでも滑れたものを。いいとこ見せようなんて思うから……心配したんですよ!」
「うぅ。でもコイビトにいいところを見せたいのが男ってもんじゃないですか! わかってないなー、イルカせんせーは」
「わかりませんねー」
いつもどおりの二人に戻ってたわいない戯言をしながら、これ以上カッコいいところを見せられてたまるか! とイルカは思う。
でも、自分以外の誰かとだったら、たとえ初めてのスケートであってもカカシは先のような失態はしなかっただろうということも知っている。
そして、ありのままで充分カッコよくて大人なのに、自分の前では何故か子供じみた愛情表現しかできないこの男のことを好きなことも自覚している。

「あ、そうだ。カカシ先生にあげたいものがあったんです。ホントはすごい滑りを見せてもらってから渡そうと思ってたんですけど……」
言いながらイルカが笑うとカカシはちょっぴり拗ねた顔をする。
「もー言わないでよー、イルカ先生。でも何くれるの? オレ、イルカせんせーがくれるものならなんだって嬉しーですぅ」
拗ねたり、喜んだり、照れたり、ホントに忙しい人だなぁ、と思いながらイルカはカカシに背を低くするよう手振りする。
「これ、アカデミーの子供たちに作った残りですけど」
そう言ってリボンとボール紙と色紙でできた金メダルをカカシの首にかけた。
「……!!」
な、な、な、な、な……と何か言いたそうに口をパクパクさせるカカシにイルカは苦笑してしまう。
やっぱりカカシ先生にはちょっと子供っぽすぎただろうか。

「う、う、う、嬉しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーッ!!!」

突然の絶叫にイルカはびくり、と身をすくませた。
いや、イルカだけでなく、リンクにいる他の客も一斉にこちらを向いた。
カカシはそんなギャラリーにはお構いなしにイルカの手を引いて滑り出す。

  いるかせんせーのきんめだるー!
  いるかせんせーありがとー!
  いるかせんせーあいしてるー!!

エトセトラ、エトセトラ、歓喜の叫びを上げるカカシを止められるものはいない。
イルカ自身もこれだけ大勢の前で叫ばれては今更たしなめる気にもなれず、半ばやけくそでカカシに付き合って滑り続けている。
それどころか調子にのってリフトやデス・スパイラルまでキメてしまった。
ひとしきり滑って息をつくとイルカの横でカカシがお辞儀をしている。
回りを見渡せば笑顔で拍手をする人々。
イルカも照れながら小さくお辞儀をした。

「カカシ先生、氷上の妖精になれましたね」
イルカがこっそり耳打ちするとカカシはにっこり笑って誇らしげにこう言ったのだった。
「オレ、金メダリストですから!」





おわり








長々とりとめのない文を読んで下さいまして、どうもありがとうございました。
自分ではカッコいいカカシ先生を目指したつもりだったのですが
カカシスキーさんの思うカッコよさとは少し違っていたかもしれません。





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